2024年4月20日土曜日

An Outcast of the Islands (1998年) / Colin Bassについて、その1

サイトをHTMLファイルからWordpress化した際に、Colin Bassに関する記事が未移行になっていました。
昨年、再構築に向けて、いろいろと試みを始めるも頓挫しておりました。
とは言え、まとまった記事にならないまでも、集めた資料を紹介する形で、こちら(Camelogue)へざっくりアップしていきたいと思います。

################################################

まずは、1998年の1stソロ作の「An Outcast of the Islands」について。


とにく目を引くのがアルバム・タイトル。ポーランド出身の英国作家Joseph Conradが1896年に発表した小説と同名ですが、この小説に加えて、Colin Bass自身の二つの経験談を交えた独自の内容となっています。また、ポーランドでの録音ということもあって、現地の奏者が多数参加しています。

################################################


■小説「An Outcast of the Islands」※写真左2冊

手始めに小説「An Outcast of the Islands」を読んでみることにしましたが、邦訳本は絶版のようでして、古書を捜索。角川文庫で「文化果つるところ」のタイトルで出版された古本をゲットしましたが、奥付けを見ると初版が昭和28年とありビックリ。一応、平成2年版で状態も良かったのですが、翻訳の古るめかしい言い回しが独特で、破滅的なストーリー展開と相まって、少々読み進めるのに難儀しました。
植民地主義時代のインドネシアを舞台に、様々な国の人が登場しますが、ストーリーについては、次回に紹介と言うことで御容赦ください。
ところでこの角川文庫版ですが、巻末解説文に後述の映画に合わせて企画された旨の記載があり、巻頭には映像写真もついていました。戦後間もなくから「角川商法」があったのだと、二度ビックリ。

映画「Outcast of the Islands」※写真中央
タイトルが「Outcast of the Islands」と、何故か定冠詞が無くなっています。また、小説の終盤部分がカットされているほか、主要人物のアイサが、海賊の娘ではなく酋長の娘となっているほか、序盤の舞台がマカッサルでなくシンガポールになっている等々、若干設定が異なる部分がありますが、原作の雰囲気はよく捉えていると思います。
DVDケースの記載を見ると、邦題は角川文庫版の小説と同じ「文化果つるところ」となっており、全編ロケ撮影された意欲作で、英国アカデーミー賞作品賞にノミネートされたとあります。

■「大英図書館 シリーズ 作家の生涯 ジョウゼフ・コンラッド」※写真右
Joseph Conradは、映画「地獄の黙示録」の原作者というくらいしか知識がないので、伝記・資料集を購入してみました。
1857年生まれですので、ロシア、プロイセン、オーストリアによる第三次分割・ポーランド消滅(1795年)後の出生。第一次世界大戦でのドイツ敗北を受けてのポーランド復活後に、1924年66歳で亡くなっています。
若くして父母を亡くしますが、伯父の支援を受け生活することとなります。見習い船員になるものの、破天荒な生活ぶりだったようで、密輸で一儲けしたり、遊びで散財した上ピストル自殺未遂とエピソードには事欠かない状況だったようです。彼を諫める叔父からの手紙が多数残っているそうです。
心を入れ替え航海士の資格を取ったConradは、英国に亡命し、28歳で船長資格を取得します。世界中を航海して回りますが、1895年37歳で処女作「Almayer's Folly」を発表。「An Outcast of the Islands」は第二作ということで、こちらも最初期の作品ということになります。
海洋小説家として有名となったJoseph Conradですが、船員時代の実体験をちゃっかり拝借しており、「文化果つるところ」での破滅的な主人公とその育ての親であるリンガード船長との関係性も、Conradと叔父に雛形があるように思われます。

################################################



■「物語 ポーランドの歴史」(中公新書、渡辺克義 著)※写真上段

Joseph Conradの伝記を読んではみたものの、私が明確にイメージできるポーランド史は連帯のワレサ議長以降なものでして、細かい部分が読み解けずフラストレーションが溜まってしまいました。
というわけで、駆け足で激動のポーランド史を学習したく通史を購入。選定理由は「薄いこと」だったのですが、高校日本史選択の私にはこれが正解。入門書として工夫が凝らされており、各章末にあるコラム、とりわけポーランド映画に関するものが興味深かったので、いくつかDVDを購入して、一人ポーランド映画祭してみました。
※写真下段左から、「地下水道」(1957年)、「灰とダイヤモンド」(1958年)、「夜行列車」(1959年)、「EO」(2022年)

################################################




■「東欧ジャズ・レコード旅のしおり」(カンパニー社、岡島豊樹 著)※写真上段左
映画に疎い私ですがポーランド映画とジャズに深いつながりがあることくらいは、(なんとなく)知っています。でもって、ポーランドを筆頭に東欧6カ国毎のジャズの歴史と名盤を紹介したこちらの書籍を購入してみました。
おいおい、Colin Bassから脱線してるじゃないかと言うなかれ。Polish Jazzの巨匠の一人に、Wojciech Karolakなるオルガン奏者がいるのですが、「An Outcast of the Islands」にゲスト参加いただいています。
「東欧ジャズ・レコード旅のしおり」でもレジェンドの一人として記載が割かれており、巻末の索引にあるKarolak, Wojciechの項には、14ものページが記載されていました。
しかし、今の若い人たちには想像もつかないかもしれませんが、冷戦時の社会主義政権下でアメリカの音楽やってた人たちって凄い。脱帽です。

※写真上段中央は、1977年~2010年にかけてのポーランド放送での録音をセレクトした「Polish Radio Jazz Archives Vol.34」。写真上段右は、Wojciech Karolakを含む4人編成Polish Jazz Quartetのセルフ・タイトル作品で1964年作。写真下段はポーランド映画で使用されたJAZZ作品のコンピ盤「Jazz in Polish Cinema」で豪華CD4枚組。Wojciech Karolakは、1957年のドキュメンタリー映画「Jazz Camping」での演奏に参加しており、テナー・サックスを披露している。ちなみにこのコンピ盤には前出の映画「夜行列車」の挿入曲も収録されている。

################################################



■「ポーランド音楽史」(雄山閣、田村進 著)
ポピュラー・ミュージックについての記載があるかもと思い買いましたが、ポーランドにおける中世以降の芸術音楽と民族音楽を扱ったアカデミックな論文でした。
ただ、「音楽史」と謳いながらも、歴史・社会背景についての記載が多く、ポーランド史の副読本として楽しく読めました。とりわけポーランド消滅後、ロマン主義期の音楽家たちについての記述に心を動かされました。思わず、数少ない私のクラシック音楽棚からポロネーズ集のレコードを出し聞き直すことに。
その他、印象的だったのが「強制収容所の音楽」の章。悲惨で悲劇的な記述は、正直、読むのが辛かった。ポーランド史において、音楽がいかに重要な地位を占めていたかがわかる好著と思いますが、社会主義政権下以降の記述にあたっては、芸術音楽と民衆の乖離が際立ち、複雑な心境になりました。


################################################

■「マラッカ物語」(時事通信社、鶴見良行 著)
話を再び「An Outcast of the Islands」に戻しますが、19世紀東南アジアの状況について知識がなく、小説の内容や叙述に今一つリアリティーを感じることができなかったりしました。ネットで物色して格好の古本を発見し、即ゲット。
「マラッカ物語」とありますが「小説」ではなく、マレー半島からインドネシアと、広くマラッカ周辺の海と島を巡る地域の歴史・社会を分析・記述した学術的な書物です。
小説「An Outcast of the Islands」では、現地の人々と西欧諸国人との確執を背景に、様々な人間模様が描かれますが、帝国主義的な歴史背景、植民地経営による収奪などについて、イメージを深めることができました。また、小説に出てくる「海賊」や「砂金の鉱床」などは、現代の私たちには絵空事に思えますが、この地の海洋生活者の様態や産出物のリストを見ると、当時の読者にとっては、エキゾチックではあってもリアルな現実だったことがわかります。

################################################

最初に申し上げたように、まとまりのない文章となりましたが、ご容赦ください。
なお、第二回は、小説「An Outcast of the Islands」のストーリー、第三回では、Colin Bassのアルバム「An Outcast of the Islands」について書き綴る予定にしています。